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お歳を重ねてもワインを楽しく愛でる方法【ワイン航海日誌】

お歳を重ねてもワインを楽しく愛でる方法【ワイン航海日誌】

2025年5月23日

ワインの摩訶不思議な魔力と言うか、その得も言われぬ魅力や力強さに何度驚かされたことか。

まもなく私は87才になります。

後期高齢者と呼ばれて久しい今日この頃、お会いする皆様から、よく「お元気ですね」と励ましの御言葉(?)を頂戴します。

ただ、気遣っていただけることが嬉しいのか、それとも寂しいのか。
当人としては、時おり自分の年齢を忘れると言いますか、意識しなくなることがありますので気分的には半々といったところでしょうか。

何時だったか、某区役所の窓口で『末期高齢者の熱田様』と呼ばれたことがあります。

係の女性はすぐにご自分の言葉に気付き平謝りでしたが、ふたりで吹き出して大笑いしました。なんでも、自宅で御主人と言い争いになると、ついつい使ってしまう言葉なのだとか。

なるほど、口論中ならけっこうダメージが来るかもしれませんね(笑)

どうせなら「高貴幸麗者」の方がいいかな?

若い皆様にはピンと来ないかも知れませんが、齢70、80ともなると、日々「残りあと何年生きるのかしら」と思うようになります。誰しも思う「歳を重ねても健康でいたい」という願いが、より切実になるわけです。

だって、自分自身が健康でなければ、どんなに高名なワインを頂戴してもお料理とのマリュアージュを満喫できなくなるのですからね。

食事時に「どうしたら健康的にワインを楽しめるか」と考え込むのも無粋ですし。ただ、高齢になると、いわゆる「適量」の定義も難しくなってきます。

「酔心に適量有り」と教えてくださったのは、奈良の某寺の管長様です。お酒に強い方、弱い方で大きく変化しますが、「適量」はとても大事だと思います。

恋をするためにワインを飲んだ青春時代から、修行のために飲んだソムリエ時代、レストラン経営者としての視点から学んだ時代。

振り返れば、若い頃はただ酔い痴れるためだけでなく、知識や好奇心を満たすため、そして仕事のためにもワインと向き合ってきましたが、70歳を越えた頃から目的が「楽しむため」「健康のため」へと変わりました。

孔子様の御言葉ではありませんが『ワインとは知好楽』のうち最後の『楽』に気が付いたのは、かなり歳を重ねた頃ということになりますね。

人間、長いこと生きていると、時には病気や怪我などに直面することもあります。かなり前の話ですが、私は主治医から余命宣告を受けたこともあります。医師から「あと三年」と言われた時には、何とかもう少しだけ長くして!とお願いしたり。

あれから17年か……。早いものです。

歳を取って、主治医から「酒は適量で」と厳命されたことを機に、食生活の改善とともに
医学的な観点からのアルコール学や、飲料水が健康維持に与える影響などを学びました。

ちなみに、厚生労働省では、「節度ある適度な飲酒」として、1日の純アルコール摂取量を男性で20g程度、アルコールの分解速度が遅い女性は10g程度としています。

純アルコール量(g)は、【酒量(ml)×アルコール濃度×0.8】で計算します。
アルコール濃数とは度数を100で割った数字で、0.8はアルコールの比重です。
アルコール度数12%の一般的なワインなら200mlほどでしょうか。

私の場合は、ワインの量は100mlと決めました。では、ストレートに飲むか、ミネラルウォーターで割ってabondanceにするか。

熟考の末、私は後者を採用することにしました。

ワイン_サブ5

現在は、一食2杯のアボンダンスを愛でるように努めています。 たまに、ノンアルコールのスパークリングワインを「これは超有名なシャンパーニュだ」と自分の脳を騙しながらaperitifとして愛用することもあります。

また、時には赤ワインをガス入りの水で薄めて愛でることも。

ここ数か月ほどは、安くて美味しい赤ワインに水の代わりとして北海道産の美味しい牛乳を使用しています。すこぶる健康的なので、名付けて「Dr. Abondance」ということで。

ワイン_サブ1

若く溌剌(はつらつ)とした若者の皆様にはあまりお勧めしませんが、健康に留意しておられる御同輩の皆様には是非是非お勧め申し上げます。

牛乳と言えば、北の大地・北海道のとある村では、牛乳で乾杯する習慣があるとか。ワインを牛乳で割ると、その色合いから源氏物語の世界に迷い込んだ気分になれるのでは。

あるいは、赤ワインと北海道の美味しい牛乳が織りなす淡いパープルカラーが、もしかしたら石山寺への旅へとお誘いくださるかもしれません。

歳を重ねても健康でいたいと願う「幸麗者」の皆様方には、身体を壊さない素敵なワインの楽しみ方を是非お勧めしたいです。

私も、ワインの楽しみに色彩学や距離学を採り入れるなど、いろいろ工夫しています。カーテンの色にローソクの光、あとは部屋着の色合いなどにもこだわってみると、不思議とワインの美味さが増すんですよ。

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また話は飛びますが、健康維持と言えばとある超有名な作家先生からいろいろな方法を伝授していただきました。

ここでは、特別に皆様にもお教えしましょう。

1)まず、本物の一万円札を100枚、食卓の上にご用意してください。
この100万円を毎晩10枚に分けて両手で1万、2万、3万……と10万円まで数えて、
間違いがないようにともう一度数え直します。

要するに、100枚を20回ずつ数えることで、指と脳に体操させるわけです。
これで、アルコールから生じるアセトアデルヒド菌が消滅し、血液の流れがよくなるのだとか。
脳の血液の流れが活性化されれば、ワインをもっとエンジョイできるかも。

2)なるべく大きな声で会話をする。

3)1日なるべく3人以上の方々と会話をする。

4)1日、できれば5,000歩くらいは歩きましょう。

5)恋心を忘れないでください。

6)できればネクタイをしない日々を。ネクタイ人生にサヨナラです。

7)ラジオ体操を続けましょう。

8)薬局でいただく薬の前に、毎日の3食を真の薬と心していただきましょう。

9)好奇心を忘れないでください。

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いかなるワインにも利点があり、欠点があるものです。
管理には善し悪しがありますが、「悪いワイン」なんてあるはずがないと信じています。

ワインもお塩も、不必要の必要品なり。
適量は、あなたの健康を守ってくださる最高なる神様からの贈り物です。
グラスの中のワインに「ありがとう」という言葉を掛けてみませんか。

さあ、素敵な夜に乾杯しましょう。


著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。

★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光
【10】ワインから生まれた名言たち
【11】ワイン閣下との上手な付き合い方
【12】学問的・科学的とは言えない、でも楽しいワインの知識
【13】ホイリゲでプロースト!旅の途中・グリンツィング村の想い出
【14】幕臣・山岡鉄舟は、果たして酒には強かったのか
【15】ワイン、日本酒、そしてお茶。それぞれの魅力、それぞれの旅路。
【16】北の大地「北加伊道」に想いを馳せて
【17】高貴なるワインだけを愉しみたいなら、洞窟のご用意を
【18】楽しむことが大事なれど、楽しみ方は人それぞれに
【19】よいワインが育つゆりかご、「蔵」について
【20】あれから60年、まだまだ続く「ワインの旅」
【21】片道450㎞、愛車を飛ばして出逢った「奇跡」
【22】もし『雪国』ではなく、函南だったなら…静岡県への小旅行
【23】「沙漠に緑を!」 遠山正瑛先生を偲び、山梨・富士吉田市へ
【24】一杯のワインが人生を変えた…愛知県幡豆郡一色村、とある男の物語
【25】力士たちの仕草に「心」が揺れて
【26】大嘗祭を控える秋。美しいお月様に見守られ、京都を訪ねる
【27】大嘗祭を終えた今こそ、悠久の歴史の渦へ
【28】冬の阿寒、美しく凍える森の中を歩いた6時間
【29】マキシムを栄光へと導いた「私たちのアルベール
【30】車内アナウンスに身体が反応!?長野県茅野市への旅
【31】千年の京都にはどんな”風の色”が吹くのでしょうか
【32】外出自粛の春に想う、奥の細道、水の旅
【33】緊急事態宣言解除で思い出す旅の楽しさ、素晴らしさ
【34】フランソワ一世の生誕地「コニャック」を訪ねて
【35】軍神とその妻、人生の最後に寄り添ったワイン
【36】ドイツ・ミュンヘンの名物イベントに想いをはせて
【37】伊豆、とある館にひそむ物語
【38】旅は人生そのもの、柔道とワインの達人との一期一会
【39】初めての出会いから60年余。いまこそ、贈りたい言葉
【40】「運命」を感じに、部屋の中から壮大な旅を
【41】雪の向こうに見えるもの。川上善兵衛に、改めて敬意を。
【42】散切り頭を叩いてみれば…明治は遠くなりにけり
【43】風の道、森の恵み…ワイン造りに大切なもの。
【44】風は淡い緑色…茶の安らぎを求めて静岡県島田市へ
【45】なくても生きてはいけるが、なくては人生じゃない。
【46】北海道・仁木町の雪は、葡萄とヴィニュロンの心強い味方。
【47】偉人たちが贈った賛辞とともに、ワインを愛でるひととき。
【48】木は日本の心、櫛は心を梳かす…秋が深まる中山道の旅。
【49】千年後に想いを馳せて、イクアンロー!北海道・阿寒のワイン会。
【50】葡萄が「えび」と呼ばれた時代を偲んで…「本草学」のススメ。
【51】カスタムナイフの巨匠は、なぜ「栓抜き」を手がけたのか。
【52】夢の中に御出現! 摩訶不思議な鳥居をめぐる京の旅
【53】明言、金言、至言…先人の御言葉とともに味わう春のワイン
【54】日本の酒文化のルーツは?古の縄文時代を目指す想像の旅
【55】一杯のワインとテディベアが、世界平和に役立ちますように
【56】チリで、フランスで、北海道で。出逢いに導かれた84年。
【57】神話の里、日本一の庭園を擁する美術館への旅。
【58】ワインを愛でる前にそっと心の中で「五観の偈」を思い出してみる
【59】毎年恒例の「北の大地」への旅、今年も学ぶこと多し
【60】一人の女性画家の世界観を訪ねて、春近き箱根路の旅。
【61】大都会の静寂の中で思うこと。
【62】1960年代、旅の途中で出会った名言たち
【63】北海道・常呂で出会った縄文土器、注がれていたのは?
【64】ワイン好きならぜひ一度、北海道・仁木町のワイナリーへ
【65】もう二度と出逢えないパリのワイン蔵
【66】訊いて、訊かれて、60年余。「ワインって何?」
【67】もう少し彷徨いましょう。「ワインとは何か?」
【68】雪の山形、鷹山公の教えに酔う
【69】ワインの故郷の歴史と土壌、造り手の想いを知る歓び
【70】葡萄とワインにもきっと通じる?「言葉」の力、大切さ。
【71】いまこそ考えてみたいこと。「美味しい」とは?「御食」とは?
【72】ワインの世界の一期一會
【73】ワインとお塩の素敵な関係

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