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仁木ヒルズワイナリーを訪ねる【ワイン航海日誌】

仁木ヒルズワイナリーを訪ねる【ワイン航海日誌】

2017年10月26日

ワインの醍醐味を楽しみたい方は、ぜひ生産地を訪ねる旅に出ることをお薦めします。生産地を訪ねて造り手たちの生の声を聞き、ワイン倉を訪ねて樽からダイレクトにグラスに注いでいただく。そんな体験をするとしないのとでは、ワインライフの充実度に大きな差が出ると思うのです。

というわけで、私も葡萄やワインのお話を現地で直接聴く喜びを改めて体感したくなり、今回は北の大地に飛びました。温暖化の影響か、いま北海道ではワイナリーが増えているそうですので、よい機会でもありますね。

今回訪ねたのは、3年ほど前から通っている「仁木ヒルズワイナリー」です。

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仁木町は余市町の隣町なのですが、ともにフルーツ王国と名高い存在です。全道のワイナリーで使用される葡萄の6割以上が両町で賄われているというのですから、凄いですよね。

ところが、人口約3,500人の仁木町は、多くの地方都市と同様に過疎化が進んでいます。そんな中で、数年前、東京に本社を置く「株式会社DACホールディングス」が、自社の研修施設の候補地探しのために同町を訪れ、海や川の風景が美しい広大な丘陵地に一目ぼれしたそうですが、副町長に面会したところ、逆に提案を受けたとのこと。

「ここにワイナリーをお作りになれば、研修所の維持費を賄えっていただけるはずです。私たちの町も元気になります」

仁木ヒルズワイナリーは、周辺で一番先に太陽が登ることから「旭台」と呼ばれる地域にあります。最寄り駅は、小樽駅から函館本線に乗って30分ほどの仁木駅。町の名前は、徳島県から訪れた仁木竹吉という人物から取られたものです。

1875年(明治8年)、新天地を求めて北海道に訪れた仁木氏は、道内の土地を調査して廻りました。その結果、雪解けが早いこと、余市川の果す役割、そして森や海からの微気候(microclimate)が流れていることなどを肌で感じたのでしょう。四国に帰った彼は仲間を説き伏せ、明治12年に同志101戸とともに村に入植し、果実づくりに励んだそうです。これが、同地のワイン造りの原点である葡萄畑の礎となったわけですね。

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ワイナリーの畑の中をくまなく歩いてみると、畑に散らばる石の種類の多さに驚きました。もう何度もこの地を訪ねているのに、まったく気がつきませんでした。粘板岩(Schiferstein)や石灰岩(Kalkstein)、その下には水はけの良い効果をもたらすゼオライト(Zeolite・沸石)。天然の鉱物たちは、ワイン用の葡萄を育てる畑を作る上で、大きな役割を果してくれているのでしょう。これなら、仁木がこの地に「未来のフルーツが育つ」と希望を託したことにも納得です。

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世界には、神から与えられた「聖地」と呼ばれる葡萄畑があります。その代表的なものが、ロマネコンチの畑であり、シャトーラツールの畑です。仁木ヒルズワイナリーの旭台の畑は、もしかしたら、それに連なる存在かも知れない…。現地でそんな石たちを眺めるていると、そんな感覚にとらわれました。

とは言え、この地の葡萄たちは、まだ植えられて6年目。すぐにワインの原料として大成するわけではありませんが、この機に、葡萄の糖度を計ってみることにしました。すると、ケルナーやツヴァイゲルド、ソーヴィニョンブラン、ピノグリ、シャルドネ種など、すべてが20度超。この糖と酸のバランスの良さは、おおいに可能性を感じさせてくれるものです。あと2年ほど経てば、ワインの原料として申し分ない葡萄が出来上がるのではないでしょうか。

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これから、北の大地は雪の季節です。雪解けの春には、前述の研修センターなども完成し、ワインツーリズムが始まる予定です。加えて、葡萄が豊かに実れば、「仁木ヒルズのワイン」として世界に飛び立ち、町の名前を知らしめてくれることになるかもしれません。

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「食物の王国の中で、大地の味を真に分からせてくれるのは、葡萄だけ」。葡萄の樹は、果実を通して土地の秘密を感じ取り、表現する。心をもたぬ石灰岩さえ、ワインに変じて黄金色の涙にむせび泣くかのよう…。

もしも仁木の町を歩く機会があれば、「仁木神社」もおすすめですよ。100年以上も仁木の果物を見守ってくださっている守り神ですから。


 

著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。

★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?

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