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もう少し彷徨いましょう。「ワインとは何か?」【ワイン航海日誌】

もう少し彷徨いましょう。「ワインとは何か?」【ワイン航海日誌】

2024年1月26日

葡萄酒とのご縁も、かれこれ65年かしら?当時は何の知識もなく、ただ酔いを求めてただひたすら飲んでいました。それこそ、ワインが葡萄から造られることすら知らなかったのです。

仕事で訪れた異国の地、日本の裏側の南米はチリのバルパライソのレストランで、生まれて初めてvino tinto(赤ワイン・赤葡萄酒)に出会いました。見知らぬ酒に酔いしれたあの日から、最初はひたすら呑んで飲んで、また飲んで。私とワインの長いお付き合いは、そんな関係から始まりました。

ワインの神秘的な奥深さを徐々に知り始めたのは、ひたすら飲ませていただいた結果、ワインの方が私に心を開いてくれたのかも。でも、当時の経験を思い返しますに、WHO推奨の「ワインの適量」は頭の片隅に明記していたほうがよいかと(約130mlだそうです)。適量を知れば、ワインの世界がより素晴らしいものになると、今は信じています。

ワインの奥の摩訶不思議な闇の中には、なぜか人と人との輪を紡ぐ道具が隠されているのかも知れません。と言うのも、晩年に比叡の峰々の千日回峰行を2度も満行された酒井雄哉大阿闍梨さんに、こう訊ねたことがあるのです。阿闍梨さん、ワインって一言で言うと何ですかね?

ニコニコと微笑む阿闍梨さんは、まず「ワインか、難しいなあ。ワインって何だろう」としばし唸った後、「そうだな、人と人を紡ぐお酒だから、一期一会かな?」とおっしゃいました。付け加えて、「物事を理解する原点は、歴史の中にあるかも知れないね」とも。ワインのことは私にはよく分からないけれど、とニコニコと答えてくれました。

一期一会か、そして歴史か。納得できるような、もう少し詳しくうかがいたいような。

ワイン_サブ1(酒井雄哉大阿闍梨さん)

ワインという得体の知れない奇遇な出逢いは、私の人生を180度変えてくれました。まずは、それを教えてくださった先輩方に感謝しなければなりませんね。あの頃は、何度も何度も、耳にタコが出来るくらい同じ言葉を聞かされたものです。

「おい熱田! おまいなぁ、気をつけろよ! 船乗り稼業はなあ! 港々に女ありだぞ!」
「おい熱田! おまいなぁ、港々に寄港するたびに美味しいワインを飲ませてやるからな!」

そして、ワインのワの字も知らない頃に、意味もわからず教えられた高貴な古いラテン語が、こんな言葉でした。

In vino veritas!!

【真実はワインの中に】という意味らしいのですけれど。

ワイン_サブ2(ブラジルのビトリアの町)

色々な港を訪れる回数が増えるにつれ、ワインの消費量も自然に増えてゆく日々。我が国ではまだ赤玉ポートワイン華やかなりし時代でした。ブラジルのリオデジャネイロから北へ離れた港町ビトリヤでは、ワイン4リットルを30分で呑み切るという大会に参加した思い出があります。唎酒の世界とはかけ離れた馬鹿げたコンクールで、ほかの20名ほどの参加者とともにあえなく敗退しました。ワインは、雰囲気の良い場所で素敵な仲間とゆったり静かに楽しむお酒なのに…。若気の至りと申しますか、生涯反省しております。

ワイン以外でも、旧西ドイツの西ベルリンに住んでいた頃、医師と看護婦さん立ち会いのもと30分でビール5リットルを誰が一番先に飲み切るかという大会に参加して敗退したこともあります。さらにはその前年、ドイツ最大のビールの祭典として名高いミュンヘンのオクトーバーフェストでも…。

ワイン_サブ3

もしかしたら、こうした悲しい(?)経験を重ねたからこそ、現在があるのかもしれません。昔むかしの宝物に、日々、感謝感謝です。

さて、話を戻しますと。ワインとは何か?やはり歴史ですかね。かなり前の話ですが、とあるワイン界の大物先生と1週間ばかりドイツのワインの産地を旅した折に、その方が語った言葉が今も我が魂に残っています。

曰く「1本のワインが出来上がるまでには、沢山の条件があります。気候風土はもちろんですが、一言で語るなら『ワインは歴史』だよ、熱田君!」

ワインの歴史と言えば。イタリアやギリシャの人々が指す「歴史」とは、十年や百年の話ではなく千年単位らしいですね。千年先と言う言葉の重みに魅了され、以後ことあるたびに千年と言う数字に取り憑かれています。

ワインは飲み物で、口に入れるものです。だからこそ衛生面は最も大切ですが、どこの国でも法律で厳しく守られていますので、安心してグラスを傾けましょう。

というわけで、ワインとは何か?ともあれ、まずは乾杯と洒落込みますか!
サルード アモーレ デネイロ!

ワイン_サブ4

Et pero’ credo che molta felicita’ sia agli homini che nascono dove si trovano i boni vini.

Leonardo Da Vinci

良いワインが造られる土地に生まれる人は幸福である。
レオナルド・ダ・ヴィンチ


著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。

★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光
【10】ワインから生まれた名言たち
【11】ワイン閣下との上手な付き合い方
【12】学問的・科学的とは言えない、でも楽しいワインの知識
【13】ホイリゲでプロースト!旅の途中・グリンツィング村の想い出
【14】幕臣・山岡鉄舟は、果たして酒には強かったのか
【15】ワイン、日本酒、そしてお茶。それぞれの魅力、それぞれの旅路。
【16】北の大地「北加伊道」に想いを馳せて
【17】高貴なるワインだけを愉しみたいなら、洞窟のご用意を
【18】楽しむことが大事なれど、楽しみ方は人それぞれに
【19】よいワインが育つゆりかご、「蔵」について
【20】あれから60年、まだまだ続く「ワインの旅」
【21】片道450㎞、愛車を飛ばして出逢った「奇跡」
【22】もし『雪国』ではなく、函南だったなら…静岡県への小旅行
【23】「沙漠に緑を!」 遠山正瑛先生を偲び、山梨・富士吉田市へ
【24】一杯のワインが人生を変えた…愛知県幡豆郡一色村、とある男の物語
【25】力士たちの仕草に「心」が揺れて
【26】大嘗祭を控える秋。美しいお月様に見守られ、京都を訪ねる
【27】大嘗祭を終えた今こそ、悠久の歴史の渦へ
【28】冬の阿寒、美しく凍える森の中を歩いた6時間
【29】マキシムを栄光へと導いた「私たちのアルベール
【30】車内アナウンスに身体が反応!?長野県茅野市への旅
【31】千年の京都にはどんな”風の色”が吹くのでしょうか
【32】外出自粛の春に想う、奥の細道、水の旅
【33】緊急事態宣言解除で思い出す旅の楽しさ、素晴らしさ
【34】フランソワ一世の生誕地「コニャック」を訪ねて
【35】軍神とその妻、人生の最後に寄り添ったワイン
【36】ドイツ・ミュンヘンの名物イベントに想いをはせて
【37】伊豆、とある館にひそむ物語
【38】旅は人生そのもの、柔道とワインの達人との一期一会
【39】初めての出会いから60年余。いまこそ、贈りたい言葉
【40】「運命」を感じに、部屋の中から壮大な旅を
【41】雪の向こうに見えるもの。川上善兵衛に、改めて敬意を。
【42】散切り頭を叩いてみれば…明治は遠くなりにけり
【43】風の道、森の恵み…ワイン造りに大切なもの。
【44】風は淡い緑色…茶の安らぎを求めて静岡県島田市へ
【45】なくても生きてはいけるが、なくては人生じゃない。
【46】北海道・仁木町の雪は、葡萄とヴィニュロンの心強い味方。
【47】偉人たちが贈った賛辞とともに、ワインを愛でるひととき。
【48】木は日本の心、櫛は心を梳かす…秋が深まる中山道の旅。
【49】千年後に想いを馳せて、イクアンロー!北海道・阿寒のワイン会。
【50】葡萄が「えび」と呼ばれた時代を偲んで…「本草学」のススメ。
【51】カスタムナイフの巨匠は、なぜ「栓抜き」を手がけたのか。
【52】夢の中に御出現! 摩訶不思議な鳥居をめぐる京の旅
【53】明言、金言、至言…先人の御言葉とともに味わう春のワイン
【54】日本の酒文化のルーツは?古の縄文時代を目指す想像の旅
【55】一杯のワインとテディベアが、世界平和に役立ちますように
【56】チリで、フランスで、北海道で。出逢いに導かれた84年。
【57】神話の里、日本一の庭園を擁する美術館への旅。
【58】ワインを愛でる前にそっと心の中で「五観の偈」を思い出してみる
【59】毎年恒例の「北の大地」への旅、今年も学ぶこと多し
【60】一人の女性画家の世界観を訪ねて、春近き箱根路の旅。
【61】大都会の静寂の中で思うこと。
【62】1960年代、旅の途中で出会った名言たち
【63】北海道・常呂で出会った縄文土器、注がれていたのは?
【64】ワイン好きならぜひ一度、北海道・仁木町のワイナリーへ
【65】もう二度と出逢えないパリのワイン蔵
【66】訊いて、訊かれて、60年余。「ワインって何?」

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