2020年3月26日
「風の色」という歌を知っていますか。秋元康さんの作詞で『通り過ぎていくその風にも 色があることを知ってるか? 一秒毎 移ろうのは 人の心だけじゃないんだ、、、』。風に香りを感じたことは何度か経験がありますが「風の色」を感じるなんて詩人の世界ですね。
今回は風の色も感じられそうな京都へ。山科の街から東山トンネルを抜けると、あっという間に京都市内です。「千年の都」京都にはどんな色の風が舞っているのでしょうか。
京都を訪ねた大きな目的は、NIKI Hillsワイナリーの上賀茂神社に於ける「ワイン無事醸造感謝並びに葡萄豊作祈願祭」に参加する為です。世界文化遺産の上賀茂神社は正式名称を“賀茂別雷神社”といいます。神代の昔、現在地の北北西にある神山に賀茂別雷神が御降臨され、その後約1400年前には現在の御殿の基が国家により造営された京都で最も古い歴史を持つ神社です。五月十五日に行われる例祭・賀茂祭(葵祭)は、七月の”祇園祭”、十月の”時代祭”と合わせて京都の三大祭と呼ばれ親しまれています。中でも、この葵祭は最も歴史が古く優美なることで知られ、平安時代に京の祭といえば「賀茂祭」のことをさしていたとされる程でした。
五月十五日の当日は、午前十時半に行列が京都御所を出発、下鴨神社にて祭儀を行なった後、再び行粧をあらためて、賀茂街道を北上、午後三時半頃に上賀茂神社に到着します。真っ赤な「一の鳥居」から行列が白砂の参道を静々と進む様は新緑の映えと相まって、絶妙のコントラストを醸し出し、その後の「二の鳥居」内で行われる勅使の御祭文奏上、牽馬の儀、東遊、走馬の儀は、まるで王朝絵巻を目の当たりにしているようです。
ちなみに、二の鳥居をくぐると「細殿(ほそどの)」と呼ばれる殿舎の前に円すい形に盛られた一対の白い砂山があります。これは「立砂」といい、神様をお迎えする際に、山をかたどってつくられた依代です。立て砂の頂きに松の葉が立てられているのは、昔、神山から引いてきた松の木を立てて神迎をしていた名残と云われ、「盛塩」の原型とも云われています。
実は、上賀茂神社とお酒には深い関係があります。昨年行われ記憶にも新しい、大嘗祭(新天皇ご即位後に初めて行われる新嘗祭)。これには全国に二箇所の田んぼから収穫されたお米で造られた「白き酒」と「黒き酒」が献上されます。上賀茂神社の田中宮司によると、かつて東京・浅草の鹿島さんという方が上賀茂神社にて「白き酒」と「黒き酒」を造っていた歴史があるそうです。御神酒とワインの不思議な巡り合わせを上賀茂神社にて体験することができました。これぞ立砂のパワーでしょうか。このような歴史に彩られた場所で、斉行司って戴けることを御祭神、賀茂別雷神に感謝申し上げます。
賀茂別雷神のお導きか、私の魂が「紫式部に逢いたい」と語り、翌日は滋賀の石山寺の境内へ向かいました。そこで、清流・瀬田川の畔に立ち、心地のよいけれども少し冷たい風を受けると身が引き締まります。芭蕉の「曙はまだむらさきにほととぎす」という句が少し理解できる気がしました。
この旅の最後には、日本料理・石柳さんでしじみ定食を食べながら、おばあちゃんから近江商人の三方良しの物語を聴かせていただきました。例の売り手良し、買い手良し、社会良し、の話は楽しかったです。次回はワインを愛でながら琵琶湖名物、ぼてじゃこや、イチモンジタナゴを肴に一夜を過ごしてみたいです。
著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。
★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光
【10】ワインから生まれた名言たち
【11】ワイン閣下との上手な付き合い方
【12】学問的・科学的とは言えない、でも楽しいワインの知識
【13】ホイリゲでプロースト!旅の途中・グリンツィング村の想い出
【14】幕臣・山岡鉄舟は、果たして酒には強かったのか
【15】ワイン、日本酒、そしてお茶。それぞれの魅力、それぞれの旅路。
【16】北の大地「北加伊道」に想いを馳せて
【17】高貴なるワインだけを愉しみたいなら、洞窟のご用意を
【18】楽しむことが大事なれど、楽しみ方は人それぞれに。
【19】よいワインが育つゆりかご、「蔵」について
【20】あれから60年、まだまだ続く「ワインの旅」
【21】片道450㎞、愛車を飛ばして出逢った「奇跡」
【22】もし『雪国』ではなく、函南だったなら…静岡県への小旅行
【23】「沙漠に緑を!」 遠山正瑛先生を偲び、山梨・富士吉田市へ
【24】一杯のワインが人生を変えた…愛知県幡豆郡一色村、とある男の物語
【25】力士たちの仕草に「心」が揺れて
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【27】大嘗祭を終えた今こそ、悠久の歴史の渦へ
【28】冬の阿寒、美しく凍える森の中を歩いた6時間
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2024年09月27日 発行
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