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ワインから生まれた名言たち【ワイン航海日誌】

ワインから生まれた名言たち【ワイン航海日誌】

2018年3月29日

「不必要な必需品、それがワインである」

それがなくても生活はできるけれど、それなしには生きていけない。上の言葉は、ワイン好きの方ならそのニュアンスが実感としてお分かりなのではないでしょうか。このように、ヨーロッパでは昔からワインの奥深さがさまざまな言葉で語られてきました。

毎日の食卓に欠かせない日常的な消費型ワインもあれば、ひとかたならぬ芸術性を帯びたワインもあります。しかし、どんなワインであろうとも、その造り手たち(ビニョロン)は想像を絶する量の汗を流しているものです。天候の良い年も悪い年も、テロワール「大地」を信じて葡萄造りに、ワイン造りに励んでいるのです。

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歴史上の偉人たちもこぞって讃えるワインという酒。その神秘性を醸し出すのは、裏側に隠されたビニョロンの魂なのかも知れません。

実際、先人たちが残したワインを讃える言葉や詩を調べてみると、あらゆる酒の中でも非常に多いことが分かります。なにしろ、旧約聖書からしてワインを指す単語が500回以上も出てくるそうですから推して知るべし、ですね。

聖書の創世記には、ノアとその家族が洪水からどう生き残ったのかについて記されていますが、その「方舟」はワインの歴史を語る際には欠かせません。古代メソポタミアの文学作品「ギルガメシュ叙事詩」によれば、船大工たちが7日で完成させたのだとか。もちろん、ワインを楽しみながらの一週間だったようです。

メソポタミア文明と言えばチグリス川・ユーフラテス川の流域ですが、この付近はワインの発祥の地とも呼ばれます。トルコのアララト山でノアの方舟が発見されたという新聞記事を読んだような記憶がありますが、定かではありません…おっと、横道失礼。

さて、このように歴史が非常に古いワインですので、賛美する格言の多さも当然と言えば当然。したがって、こうした先人たちの表現に触れて味わうことも、「ワインを美味しく愛でる方法」のひとつと言えるでしょう。

wainフランスで見つけたワインの格言集『Le Vin citations』

たとえば、『レ・ミゼラブル』で有名なロマン主義の詩人・小説家であるヴィクトル・ユーゴーは、「Dieu n’avait fait que leau,mais i’homme a fait le vin!(神は水を創り、人はワインを造る)」という詩文を残しています。また、ルネサンス期の医師フランソワ・ラブレーは、特に『ガルガンチュワ物語』『パンタグリュエル物語』で名高い作家でもありましたが、彼の詩文もまた心を動かされるものです。曰く「Jamais Homme noble ne hait le bon vin.」、直訳すれば「崇高なる者が良いワインを憎むことなど断じてない」という意味になります。

個人的には、ロベルト・コッホとともに「近代細菌学の開祖」と讃えられるルイ・パスツールの言葉も大好きです。彼自身の名を取った低温殺菌法「パスチャライゼーション」の開発者でもあるため、業界では「ワインの父」とも呼ばれています。1857年に舞い込んだという「ワインの腐敗原因」に関する研究依頼がのちの微生物学を変革するわけですが、彼の生まれ故郷であるジュラ県のドルはワイン生産地のど真ん中でもあります。

「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」という名言がありますが、こちらも美しい言葉ですよ。「ll y a plus de philosophie dans une bouteille de Vin que dans tous les livres.」。1本のワインには、どんな書物よりも多くの哲学が詰まっている…という意味になります。

ルイ・パスツール

ワインにまつわるパスツールの言葉には、もうひとつ、ぜひ味わっておきたいものがあります。「Le vin est le breuvage le plus sain et le plus hygienique qui soit.」、すなわち「ワインは、それ自体が最も神聖で、最も衛生的な飲み物でもある」の意。細菌学の権威の言葉であることを知っていれば、ずっしりとした重みを感じるはずです。

先人たちの残した名言や格言から、ワインの世界の奥深さに触れる。ワインをいかに美しく讃えるか、それは知的な愉しみのひとつになるのではないでしょうか。そこで、グラスを揺らす夜には、ワインを愛でる言葉を編んでみては。

というわけで、最後に私めのワイン讃歌をば。自分なりに想いを託してみたのですが、いかがなものでしょうかね…?

「ワインは人の心をプラス思考にしてくれます」

「真実はワインの中にのみ存在します」


著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。

★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光

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