2025年9月2日
ワインの飲み過ぎで主治医からアルコールを控えるよう厳命を言い渡されて、はや10年の歳月が過ぎ去りました。当時は困り果てましたが、無理なくワインライフを継続するために考えついたのが、水割りとして愉しむことです。
あれは1960年代かな?ワインの聖地ボルドーはサン=テミリオンのワイナリー、シャトー・ド・レスクールで学んでいた頃は、ランチでよくアボンダンス(ワインの水割り)を飲んだものです。そう、最初は奇妙に感じても慣れるに従ってそれなりに美味しく感じるようになった、あの方法を採り入れればよいのです。( シャトーレスクール城の黒エチケット )
これなら、安いワインでも十分。500〜600円ほどのものを使用しましょう。準備しながら、当時のことを思い出します。そうそう、あの頃はフロマージュ(チーズ)も朝昼晩と良く食べました。朝用のチーズってあるんですよね。また、白ワインはほとんど飲みませんでした。宗教的な理由もあり、13日の金曜日には肉は一切食べないのですが、魚料理でも赤ワインを愛でていました。
白ワインは飲まないと申しましたが、デザートワインは別です。貴腐ワインは、少量ながらよく愉しみました。高品質な貴腐ワインを愛でたくなると、ソーテルヌ村まで車を飛ばしたものです。産地で味わう貴腐ワインは、前菜で飲む時と、デザート時に愛でる時では温度がまったく違うんですよ。夏の暑い日に庭で味わうランチでは、よく冷やした安い貴腐ワインを食前酒がわりに飲むのですが、これがたまらないくらい美味しいんです!
こう書くと、「貴腐ワインを食前酒に?」と驚かされるかも知れませんね。でも、こういう時は、能書きよりも楽しめるかどうかが大切かと。仕事疲れを一瞬で吹き飛ばし、食欲を刺激してくれるのですから、試さないのは損というもの。ちなみに、こんな場面では、なぜかオリーブの実をよく摘んだことを覚えています。肝臓を守ってくれるらしいのですが。
( 聖(サン)マルタンの赤マントとイエス キリストとの出逢いの図)
摩訶不思議か、必然か。ある夜、私の夢枕にワインの神様が現れて、「アボンダンスを世界に広めなさい」と仰いました。聖(サン)マルタン様のお告げとなれば、実行するしかありませんね。そうだ、水ではなく、牛乳で割って「ドクター・アボンダンス」なんてどうでしょう?しかも、ここはもう少し凝って、私も大好きな北海道の牛乳を使ってみるとか。そうなると、まずは道内で啓発運動かな?
聞くところによれば、北海道の中標津町では牛乳で乾杯なさるとか。ご存知の通り、北海道は我が国の牛乳や乳製品市場の基盤を支える重要な存在。生産量は、全国の約半分を担っているそうです。ただ、最近は持続可能性の面での課題の多さが指摘されています。飼料価格の高騰は酪農経営を圧迫する要因のひとつですし、乳価の低迷も酪農家の経営の厳しさに拍車をかけています。そんな時代性だけに、新たな味わい方の提案にもなったりするのでは。
( 紫式部『源氏物語風』カラーのドクターアボンダンス )
さっそくアメリカの知人にこのアイデアを聞かせたところ、「その話、僕も乗ったよ!」とのメールが届きました。若い頃は力があり余っている人も、仕事をリタイアする頃から自分の健康に付いて真剣に考え始めるのは、洋の東西を問いませんね。
健康維持のイロハについては、私も知人の医師から時々ご指導を仰いでいます。曰く、「薬は毒です。だから、よく効能を発揮するのです」「あなたの真の薬は、毎日食べる三度のお食事です。だから、献立がすこぶる大切なのです」。だとすれば、飲み物の選び方も重要になるはずなので、方向性はきっと間違っていませんよね。
( 岩手県は水の宝庫? )
身体をしっかりメンテナンスする上で、水分が果たす役割が大きいのは誰もが知るところ。水分補給と聞くと、水分であれば内容は問わないような印象を受けますが、それでは少し味気ないのでは。スーパーやコンビニに行けば、たくさんのミネラル水が並んでいますしね。
そう言えば、生まれる前の私たちは、羊水の中で育つではありませんか。私は科学者ではないので何の知識もありませんが、「水分」を選ぶことは意外に大切なのでは?というような文章を書いていたら、偶然にも知り合いの医師から「暑いですね! 水分補給を怠っていませんか?」という旨の電話が。
( 40年以上愛飲している仙人秘水は岩手県釜石市近くで湧き出ている )
彼によれば、水分補給は尿素窒素(UN値)を下げることにもつながるようで。なるほど、だから糖尿予備軍の皆様がワインを飲み過ぎた日には、暑さ対策に加えて、その意味でも水分補給が重要なのですね。ちなみに、電話口ではこんな話も。「私たちの身体は、毎日約3リットル近くの水分を発散しているのですよ」。お医者様のお話には、本当にためになる知識がちりばめられていますね。
ちょっと逸れました、アボンダンスのお話でしたね。ワインを水や牛乳で割るなんて、もしかしたら暴言と捉えられるかも知れません。でも、1本500円前後のワインを身体に無理なく、美味しくいただく方法を模索するということで、どうかお許しを。
たとえば、真夏の暑い午後、ひと泳ぎした後にプールサイドでアボンダンスを傾ける…なんて悪くないのでは。昔、シャブリ村のジャンモローさんのお宅のプールで、お食事前のkir(アリゴテと言う白ワインで、カシスリキュールを少量を入れて割るだけ)の美味しさに感動した身としては、「学ぶよりも慣れましょう」とアドバイスしたいところ。
まだまだ暑さ厳しき日々が続きそう。皆様、健康にご留意の上、ワインをお楽しみくださいませ。
(私流のスペシャル・アボンダンスです)
之を知る者は、之を好む者に如かず、之を好む者は之を楽しむ者に如かず。
孔子の『知好楽』は、ワイン愛好家にもとてもよく響くと思います。もっともっとワインを気楽に、健康的に楽しんでみませんか?
著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。
★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光
【10】ワインから生まれた名言たち
【11】ワイン閣下との上手な付き合い方
【12】学問的・科学的とは言えない、でも楽しいワインの知識
【13】ホイリゲでプロースト!旅の途中・グリンツィング村の想い出
【14】幕臣・山岡鉄舟は、果たして酒には強かったのか
【15】ワイン、日本酒、そしてお茶。それぞれの魅力、それぞれの旅路。
【16】北の大地「北加伊道」に想いを馳せて
【17】高貴なるワインだけを愉しみたいなら、洞窟のご用意を
【18】楽しむことが大事なれど、楽しみ方は人それぞれに。
【19】よいワインが育つゆりかご、「蔵」について
【20】あれから60年、まだまだ続く「ワインの旅」
【21】片道450㎞、愛車を飛ばして出逢った「奇跡」
【22】もし『雪国』ではなく、函南だったなら…静岡県への小旅行
【23】「沙漠に緑を!」 遠山正瑛先生を偲び、山梨・富士吉田市へ
【24】一杯のワインが人生を変えた…愛知県幡豆郡一色村、とある男の物語
【25】力士たちの仕草に「心」が揺れて
【26】大嘗祭を控える秋。美しいお月様に見守られ、京都を訪ねる
【27】大嘗祭を終えた今こそ、悠久の歴史の渦へ
【28】冬の阿寒、美しく凍える森の中を歩いた6時間
【29】マキシムを栄光へと導いた「私たちのアルベール
【30】車内アナウンスに身体が反応!?長野県茅野市への旅
【31】千年の京都にはどんな”風の色”が吹くのでしょうか
【32】外出自粛の春に想う、奥の細道、水の旅
【33】緊急事態宣言解除で思い出す旅の楽しさ、素晴らしさ
【34】フランソワ一世の生誕地「コニャック」を訪ねて
【35】軍神とその妻、人生の最後に寄り添ったワイン
【36】ドイツ・ミュンヘンの名物イベントに想いをはせて
【37】伊豆、とある館にひそむ物語
【38】旅は人生そのもの、柔道とワインの達人との一期一会
【39】初めての出会いから60年余。いまこそ、贈りたい言葉
【40】「運命」を感じに、部屋の中から壮大な旅を
【41】雪の向こうに見えるもの。川上善兵衛に、改めて敬意を。
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【44】風は淡い緑色…茶の安らぎを求めて静岡県島田市へ
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【59】毎年恒例の「北の大地」への旅、今年も学ぶこと多し
【60】一人の女性画家の世界観を訪ねて、春近き箱根路の旅。
【61】大都会の静寂の中で思うこと。
【62】1960年代、旅の途中で出会った名言たち
【63】北海道・常呂で出会った縄文土器、注がれていたのは?
【64】ワイン好きならぜひ一度、北海道・仁木町のワイナリーへ
【65】もう二度と出逢えないパリのワイン蔵
【66】訊いて、訊かれて、60年余。「ワインって何?」
【67】もう少し彷徨いましょう。「ワインとは何か?」
【68】雪の山形、鷹山公の教えに酔う
【69】ワインの故郷の歴史と土壌、造り手の想いを知る歓び
【70】葡萄とワインにもきっと通じる?「言葉」の力、大切さ。
【71】いまこそ考えてみたいこと。「美味しい」とは?「御食」とは?
【72】ワインの世界の一期一會
【73】ワインとお塩の素敵な関係
【74】深まる秋の季節に誘われて、岩手・石鳥谷への旅
【75】ワイン好きにおすすめ、2人の「父」を訪ねる旅
【76】ボトルやグラスの中で揺れる「色」のお話
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2025年08月29日 発行
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