2025年7月30日
かつて我が国の未来ある若きお医者方は、アメリカよりもむしろドイツで医学を学んでいました。そんな歴史と連動するように、ワインの輸入量もまたドイツワインがずば抜けて多かった時代があります。現在はWEINですが、大昔のドイツではワインを何と呼んでいたのかしら?正確なところは学者の皆様に委ねるとして、想像しますに、葡萄に類する植物は太古の時代から彼の地に存在していたのでしょう。
グラスで揺れる液体を眺めていると、時折り、縄文時代初期の文化や生活様式へと思いを馳せたりします。争いごとのない平和な部族では、野や山で自然に生まれた葡萄のような果実に恵まれ、これまた野生の酵母のお蔭で授かった葡萄酒のような飲み物が存在していたのでは?だとすれば、ドイツワインはアッフェン酒(猿酒)が原点?大自然の産物にせよ、人類の叡知にせよ、古の時代から現在まで悠久の時を歩んできたワイン文明に感動を覚えるのです。
(奈良で発見された古事記の編纂人・太安萬侶のお墓。一時は架空の人物として扱われていましたが、実在していたようですね)
さて、呼び名は定かではないにせよ、我が国にもエビカズラ(葡萄葛)酒は古くから存在していました。ワイン王国として全国にその名が轟く山梨あたりでは、一時は「葡萄酢」と呼ばれていた時代もあったようで、「葡萄酒」となったのはかなりの時代を経てからのことだと思います。
江戸・明治・大正と長い時が流れ、今年は記念すべき「昭和100年」を迎えました。途中、平成という駅で途中下車しつつ、また令和駅で乗り換えて現在7年目。私たちは、私たちのワインとともに、新しい世紀へと向かっています。
そう考えると、この一瞬一瞬がとても大切なものに思えてなりません。天童よしみさんの「昭和ごころ」が、そんな気持ちを見事に表現してくださっています。
〽 あっという間に 時は経つ
だからゆっくり 生きましょう
昭和百年 令和を背負い
息を抜くには まだ若い
これから先も 負けないと
見上げる夜空(そら)に 春の月〜
(ワインボトルの熟成庫 CAVE)
さて、また話がぴょんと飛んで恐縮なのですが。現在の我が国では、ワインを愉しむ知識や醸造学がかなり進みました。では、ワインのストアマネジメントについてはいかがでしょうか。
ワインを熟成させて風味を高めていくには厳密な保管が必要であることは、今では誰もがご存じですね。では、販売しているお店の店頭では、ワインはどう管理されているのでしょうか。専門店やデパートでは、高級な銘柄はかなり大切に扱われていますが、お値段の安いワインは来店客に一目でわかるよう垂直に立てて陳列されています。
(specimensのラベル)
ワインの陳列方法は、実は意外に重要です。たとえば、パリあたりの酒屋さんでは、店頭に飾られた各銘柄のボトルには、その一本一本に必ず[specimens]と書かれたラベルが貼られています。「これはあくまでもサンプルですよ」という目印で、購入したいという意思を示すと店員が地下へと降りていきます。そこは温度・湿度が厳しく管理されているワイン庫で、棚から出した注文品を携えて戻ってくるわけです。
こうしたお店には、キャビスト(ワイン蔵専門のソムリエ)が在籍していて、ワイン談義を交えながら細かくアドバイスしてくれます。
昔、ボルドーで開催されたワインの販売をテーマとした国際的な会議に参加したことがあります。ワインを世界に販売したら、あとは生産者に責任なしでよいのか?保存熟成の重要性を広く知らしめて、エンドユーザーに最上の状態で愛でていただく流通を一緒に考えるべきではないのか…そんな内容の会議でした。日本からは、醸造学で高名なT先生も参加されていた記憶があります。
格付け機関の星の数に頼ることなく、良心的なレストランを長期に渡り経営存続させたいなら、テーブル数を減らしてでも本格的なワイン熟成庫(cave à vin)を確保すべき。では、デパートや販売店はどうしましょうか?営業スペースを減らしてでもキャーブを作ったほうがよい?飲食コンサルタントの先生方は恐らく反対派だと思いますが、皆様はどうお考えですか?
(ワインボトルの熟成庫 キャーブcave)
レストランには、星が輝く高級店から店主・シェフが我が道をゆくビストロまで、さまざまなお店が存在します。フランスでは、レストランの格によってワインの選定基準がハッキリと異なります。ワイン文化の違いでしょうか、グラスワインやカラフェ売りのワイン選びや、サービス内容や量の違いなど、日本のスタイルに慣れていると驚かれるかもしれません。実に興味深く、学ぶものがたくさんあると思います。
(仁木神社=ワイン神社)
上の写真は、北海道は余市郡仁木町のワイン神社。明治時代から仁木神社として親しまれてきた歴史を持ちますが、真のワイン文化の育成に貢献すべく、敢えて通称⛩️ワイン神社として新しく船出されたのです。境内のあちこちでワインにまつわる奉納品を見ることができますので、ぜひスマホで『ワイン神社』と検索してみてください。
(仁木神社の板谷管長様と灯籠や手水舎)
神人和樂。神楽の世界で、神様と人々が一体となって楽しむ様子を指す言葉です。摩訶不思議な、されど楽しき飲み物、ワイン。心地よく酔わせてくれるその一杯は、きっと神様にも気に入っていただけることでしょう。
一杯のワインが聖人だらけの教会よりも遥かに多くの奇跡をもたらす。
何故ならワインは『知好樂』の樂であるから。
さらに初期縄文人は語る 〜 楽しくなけりゃワインじゃないと。
著者:熱田貴(あつたたかし)
経歴:昭和13年7月7日、千葉県佐原市に生まれる。外国にあこがれ(株)日之出汽船に勤務し、昭和38年まで客室乗務員として南米、北米を回りワインに出会う。39年にホテルニューオータニ料飲部に。44年~47年までフランス・ボルドー、ドイツ・ベルンカステル、オーストリア・ウィーン、イギリス・エジンバラにてワイナリー、スコッチウィスキー研修。48年ホテルニューオータニ料飲部に復職。平成3年に東京麹町にワインレストラン「東京グリンツィング」を開業。平成9年に日本ソムリエ協会会長に就任。「シュバリエ・ド・タストヴァン」「コマンドリー・デュ・ボンタン・ドゥ・メドック・エ・デ・グラーヴ」「ドイツワイン・ソムリエ名誉賞」など海外の名誉ある賞を数々受賞。その後も数々の賞を受賞し、平成18年に厚生労働省より「現代の名工」を受賞、平成22年度秋の褒賞で「黄綬褒章」を受賞。現在は一般社団法人日本ソムリエ協会名誉顧問、NIKI Hillsヴィレッジ監査役などを務めている。
★ワイン航海日誌バックナンバー
【1】もう1人いた「ワインの父」
【2】マイグラスを持って原産地に出かけよう
【3】初めてワインに遭遇した頃の想い出
【4】冬の楽しみ・グリューワインをご存知ですか?
【5】仁木ヒルズワイナリーを訪ねる
【6】酒の愉しみを詠んだ歌人の歩みを真似てみる。
【7】シャンパーニュ地方への旅
【8】エルミタージュの魔術師との出逢い
【9】ワインと光
【10】ワインから生まれた名言たち
【11】ワイン閣下との上手な付き合い方
【12】学問的・科学的とは言えない、でも楽しいワインの知識
【13】ホイリゲでプロースト!旅の途中・グリンツィング村の想い出
【14】幕臣・山岡鉄舟は、果たして酒には強かったのか
【15】ワイン、日本酒、そしてお茶。それぞれの魅力、それぞれの旅路。
【16】北の大地「北加伊道」に想いを馳せて
【17】高貴なるワインだけを愉しみたいなら、洞窟のご用意を
【18】楽しむことが大事なれど、楽しみ方は人それぞれに。
【19】よいワインが育つゆりかご、「蔵」について
【20】あれから60年、まだまだ続く「ワインの旅」
【21】片道450㎞、愛車を飛ばして出逢った「奇跡」
【22】もし『雪国』ではなく、函南だったなら…静岡県への小旅行
【23】「沙漠に緑を!」 遠山正瑛先生を偲び、山梨・富士吉田市へ
【24】一杯のワインが人生を変えた…愛知県幡豆郡一色村、とある男の物語
【25】力士たちの仕草に「心」が揺れて
【26】大嘗祭を控える秋。美しいお月様に見守られ、京都を訪ねる
【27】大嘗祭を終えた今こそ、悠久の歴史の渦へ
【28】冬の阿寒、美しく凍える森の中を歩いた6時間
【29】マキシムを栄光へと導いた「私たちのアルベール
【30】車内アナウンスに身体が反応!?長野県茅野市への旅
【31】千年の京都にはどんな”風の色”が吹くのでしょうか
【32】外出自粛の春に想う、奥の細道、水の旅
【33】緊急事態宣言解除で思い出す旅の楽しさ、素晴らしさ
【34】フランソワ一世の生誕地「コニャック」を訪ねて
【35】軍神とその妻、人生の最後に寄り添ったワイン
【36】ドイツ・ミュンヘンの名物イベントに想いをはせて
【37】伊豆、とある館にひそむ物語
【38】旅は人生そのもの、柔道とワインの達人との一期一会
【39】初めての出会いから60年余。いまこそ、贈りたい言葉
【40】「運命」を感じに、部屋の中から壮大な旅を
【41】雪の向こうに見えるもの。川上善兵衛に、改めて敬意を。
【42】散切り頭を叩いてみれば…明治は遠くなりにけり
【43】風の道、森の恵み…ワイン造りに大切なもの。
【44】風は淡い緑色…茶の安らぎを求めて静岡県島田市へ
【45】なくても生きてはいけるが、なくては人生じゃない。
【46】北海道・仁木町の雪は、葡萄とヴィニュロンの心強い味方。
【47】偉人たちが贈った賛辞とともに、ワインを愛でるひととき。
【48】木は日本の心、櫛は心を梳かす…秋が深まる中山道の旅。
【49】千年後に想いを馳せて、イクアンロー!北海道・阿寒のワイン会。
【50】葡萄が「えび」と呼ばれた時代を偲んで…「本草学」のススメ。
【51】カスタムナイフの巨匠は、なぜ「栓抜き」を手がけたのか。
【52】夢の中に御出現! 摩訶不思議な鳥居をめぐる京の旅
【53】明言、金言、至言…先人の御言葉とともに味わう春のワイン
【54】日本の酒文化のルーツは?古の縄文時代を目指す想像の旅
【55】一杯のワインとテディベアが、世界平和に役立ちますように
【56】チリで、フランスで、北海道で。出逢いに導かれた84年。
【57】神話の里、日本一の庭園を擁する美術館への旅。
【58】ワインを愛でる前にそっと心の中で「五観の偈」を思い出してみる
【59】毎年恒例の「北の大地」への旅、今年も学ぶこと多し
【60】一人の女性画家の世界観を訪ねて、春近き箱根路の旅。
【61】大都会の静寂の中で思うこと。
【62】1960年代、旅の途中で出会った名言たち
【63】北海道・常呂で出会った縄文土器、注がれていたのは?
【64】ワイン好きならぜひ一度、北海道・仁木町のワイナリーへ
【65】もう二度と出逢えないパリのワイン蔵
【66】訊いて、訊かれて、60年余。「ワインって何?」
【67】もう少し彷徨いましょう。「ワインとは何か?」
【68】雪の山形、鷹山公の教えに酔う
【69】ワインの故郷の歴史と土壌、造り手の想いを知る歓び
【70】葡萄とワインにもきっと通じる?「言葉」の力、大切さ。
【71】いまこそ考えてみたいこと。「美味しい」とは?「御食」とは?
【72】ワインの世界の一期一會
【73】ワインとお塩の素敵な関係
【74】深まる秋の季節に誘われて、岩手・石鳥谷への旅
【75】ワイン好きにおすすめ、2人の「父」を訪ねる旅
【76】ボトルやグラスの中で揺れる「色」のお話
【77】お歳を重ねてもワインを楽しく愛でる方法
生涯忘れられない特別な年末年始を。 三井オーシャンフジで優雅に過ごすグアム&サイパン。 憧れの世界のイメージが強かったクルーズ船だが、近年…
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2025年07月25日 発行
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