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写真のためではない写真【写真と生きる】

写真のためではない写真【写真と生きる】

2018年5月24日

アート写真の流通

[黒田]
少しトピックは異なりますが、自分がこの世界に入って課題に感じている部分がありまして。国民性が理由なのかどうかわかりませんが、例えば無名の写真家が展示をやるとなった時に、そこそこのメディアで告知されていたとしても集客はあまりよくありません。例えば我々の友人フォトグラファーが展示をするとなっても、来場者の殆どは友人だったりします。
では日本人がアートや写真に関心がないのかというとそういうわけではなく、フェルメール展やりますとなったら、数時間並んだりするわけですよね。これは日本人を象徴している現象だと思っていて。我々は、アートに対する感覚もあるし、好きだと思うんですけど、行動にうつすにはある程度の権威がないといけないのかなと思ってしまいます。
販促のされ方や個々人のアンテナの貼り方など色々課題もあると思うんですけど、IMAのコンセプトとしては、一般の方向けの写真雑誌ということで、このあたりの課題感はどう考えていますか?

[太田]
IMAプロジェクトでは、海外で展覧会も何度か開催しています。例えばPanasonicの特別協賛による 「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BYJAPANESE PHOTOGRAPHERS」 という活動は今年で6年目。LUMIXのカメラで、若手の日本人写真家を支援するというプロジェクトです。

[黒田]
オリンピックの年ですもんね。

[太田]
これは6人のフォトグラファーをIMA編集部が選んで、パリ、アムステルダム、東京の3都市を展覧会が巡回します。若手の人たちを海外に紹介していくためのプロジェクトです。
日本には、アワードは多数あるんですが、それを獲ってもなかなか出口が見つかりづらいですよね。

[黒田]
そうですね。キャリアにつながっていくイメージをもてるのは新世紀ぐらいでしょうか。

[太田]
作家の方が作品を売っていくためには、海外のマーケットの方が圧倒的に大きいので、海外で展示をすることが重要だと思っているんです。
実際、パリやアムステルダムで展示を行うと、無名にもほどがある、日本人すら知らない若手の写真家が展示しているのに、結構な人数のお客様が見に来てくださるんです。逆に日本では、他の2都市に比べると来場者が少ない。
日本人は無名の人の展覧会にはなかなか来てくれないんです。海外の人たちは知らなくても、熱心に見て、作家に対して質問をしてくれます。その理由を聞いてみると、 「見たことないもの、新しいものを見たいんだよね」 って言うんですよ。
でも日本は逆で。すでに知っているものを確認に行きたがるというか。アートに接する動機が日本人と欧米人って真逆なんだなぁと痛感しています。でも、そろそろ日本人も新しいものを見たいなというマインドに切り替わってくるんじゃないかなと期待しています。
しかも、欧米ではこの初見の若手作家たちの作品がちゃんと売れるんです。
価値もまだ分からない作品を買うって、日本人の感覚だとなかなか怖くてできないじゃないですか。でも、彼らは「価値は自分たちが作る」と思ってるんです。自分がいいって思って買ったんだから、それに対する価値はあとからついてくるんだと。

[黒田]
まさにそうですね。

[太田]
この点においては、やっぱりそれは私たちのメディアとしての啓蒙が足りてないなとも思います。
例えば昔は、ワインは高い、味がよく分からない、手に入りづらいと普及するのにかなりの時間を要しました。でも第何次かのワインブームを経て、流通も整い、レストランから居酒屋さんまでも飲める場所が増えて、価格のバリエーションも揃って、雑誌でもワイン特集が組まれてと、情報もすごく増えました。色々な段階を経てようやく一つの物事に対するリテラシーが上がっていく。アートに関してはまだそのステップがいくつも残っているんだと思います。

[黒田]
なるほど、確かに。すごく勉強になります。インパクトが何かあれば。アートブームじゃないですけど、アート写真ブーム…いくつかはあったんだろうなとは思うんですけども。
まだまだ超えなければいけないステップがいくつかあるんでしょうね。自分自身も買うという感覚があるわけではないので。
先日、世界的にも著名なバレエダンサーの方を撮影する案件があったんですけど、お話を聞いていて興味深い話がありました。その方は10代から海外でご活躍されていて、最終的に歴史的バレエ団のプリンシパルになるんですけど、その立場でありながら、 「日本人はどんどん海外に行きたがるけど、確かに海外に行くのは正解なんだけれども、できれば日本に残って日本なりのアート感を模索して欲しい」 というようなことを言っていました。日本人は多くのバレリーナを輩出していて、素養はあると。しかし杓子定規に海外へ行くのが正解と考えずに国内で文化を築いていかないとセンスは育たないということだそうです。もちろんいまはヨーロッパのセンスには敵わないけどその海外に流出する限りその構図は変わらないというか。
それを聞いて、これは何事にも言えることなのかなと思いました。我々はけっこう欧米コンプレックスがあると思うので。アート分脈全般においても同じことを言えるかなと感じています。

[太田]
そうですね。IMAプロジェクトのスタート時期はタイミングが良かったと思うのは、雑誌としてはデジタル化が進んでいってるということが、一見アウェイのようにも見えるんですけど、全然そんなこともなくて。
作家の人たちは、日本のマーケットの中では活躍の場が少ないんですけど、インターネットやSNSの恩恵で海外とのコミュニケーションがスムーズになり、グローバルのマーケットにアクセスできる機会は確実に増えているんです。若手日本人写真家で海外で評価される人たちが増えているのは、デジタル化やインターネットのおかげだと思います。
そういう時期に、すごくいいタイミングで写真の雑誌を始められて、彼らと一緒に成長してきてる実感があります。これが10年早くてもダメだっただろうなと思うし。そういう人たちがどんどん増えていくと状況も変わっていって、逆輸入的に日本でも人気が出てくるかなと思っています。

[黒田]
日本の方でも海外でギャラリーとかで評価されてたりとかするみたいですね。自分の知り合いでも海外のギャラリーと提携してて、展示されている方もいらっしゃいますし。われわれの耳には普通に生活していると入ってこないところでも、いらっしゃるんですよね。
お話をお伺いしてると思ってる以上にそういうところに進出している人たちがいるんだなという印象です。ほんと知らないことだらけで楽しいです。

【IMA gallery】

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