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写真のためではない写真【写真と生きる】

写真のためではない写真【写真と生きる】

2018年5月24日

写真のための写真ではない

[太田]
IMAを始める前と始めてからしばらくは、私も体系的に写真を勉強したわけではなかったので、しばらく東京都写真美術館の図書館に結構通ってですね。何時間もいろんな写真集や資料を閲覧しまくりまして(笑)
それですごく、過去の印刷物から自分が学べることの大きさをあらためて痛感しました。
編集者としてアートの紹介に関わってきて、アートは分からないとか難しいとか言う方も多いんですけど、自分と同時代に生きている作家たちが、同じ世界で何を切り取っているのか。写っているものが真実だという意味ではなく、彼らが何を見て、何を考えているのかということを、写真というメディアを通して追体験すると考えれば、面白いと思うのです。それをきちんとビジュアルと言葉で伝えたいなと思っています。
ただ、写真を論じるとなると、その世界の人たちだけがわかる言葉で内々に向けて語っているような印象も強いんじゃないでしょうか。でも、「私たちには関係ない」と思われるのは残念だなと。

[黒田]
それ、ありますね。

[太田]
写真を見慣れない人にとっても、伝わる面白さに変換したい。だから写真の裏にある歴史や背景、作家の意図を丁寧に紐解いていくことを心がけてます。どの写真に写っているものも、いまこの時代を生きている私たちに何かしらの関係があり、関心が持てるはずのものなので、その接点を見出して、伝えたいと思います。

[黒田]
そうですね。自分なんかは、つい最近まで写真業界の人を外側から眺めている気持ちだったのでよくわかります。写真論であったりとか、自分が写真始めてから比較的早い段階で大先輩の方々と知り合ってお話する機会があったので、いろいろお話聞いていて、難しいなと思ってたんです。
なんかこう皆さん色々考えられているんだなと。そう考えると軽々しく写真撮ってるとか言うのも失礼な気がしてきちゃって。いまは大分考えの整理がついたのでまた違う形で見れるんですけど。
写真に限らず、クリエイションはなんでもそうだと思うんですけど、誰かが作ったものじゃないですか。必ず作り手がいる。写真って非常にイージーであるがゆえに、ただ撮るという点でいえば誰でも撮れるので、比べてしまいがちなのかもしれませんが。素直にアウトプットに対して、何故この人はこのように撮ってまとめたんだろうと思いをはせると、それだけで面白くなるんですよね。
それは別に理解が正しい正しくないとか気にせず、ただ感じたとおりにそれを読む。いろんな意味で読む、見るだけでももう楽しいと思います。

[太田]
誰が読んでも面白いように、分かりやすい言葉で、あえて 写真の評論家ではない人 に書いてもらうというのを課していたときがありました。例えば映画監督だったり、脳科学者だったり、小説家やテクノロジーの専門家に書いていただいたり。異ジャンルの人に解き明かしてもらうということには、わりと力を入れて、やってきました。写真のための写真論にならないように。
写真というメディアの強みの一つでもあり、ある意味で軽視されてしまう理由の一つでもあるかもしれませんが、 様々なジャンルと繋がれるという特性があります。
ファッション、建築、ドキュメンタリー、食、自然などありとあらゆるジャンルと、写真は繋がっています。だから、雑誌でもイベントのトークの企画でも、それらのジャンルの人たちと写真とのブリッジを架けるということに、特に力を入れてきました。

[黒田]
それはおもしろいですね!

[太田]
毎号の特集テーマも、今活躍している写真家の人たちを自然に集めていくと、時代の何に直面しているのか、関心を持っているのかがおぼろげに見えてきます。前回、 「立体化する写真」 という特集だったんですけど、なぜ複数の写真家たちがそういう表現に向かっているのかと考えると、時代を映す一つの鏡のようになっている。写真や写真家たちを通して、時代や世界や社会に向き合うことになります。

[黒田]
確かに。先程の歴史の話もそうですが、見ていて感じる部分があります。
これは自分の考えなんですけど、写真という存在自体が非常にメディア的だと思っていて。媒介するものというか。全てが真実とは言わないまでも、どこかにリアルが写っている。様々な異ジャンルで使用されている媒体なんですよね。お話を伺って思い返してみると、つい最近の号でも、映画監督が撮る写真といった特集をやられていますよね。デヴィット・リンチってこんな写真上手いんだ!と驚きました(笑)、映画は多少近い世界ですが、たしかに異ジャンルですね。
実は、自分の中に残っている素人的な感覚からすると、IMAを読んでいても、これは高尚な雑誌なんじゃないかという意識があったんですね。オレなんかが読んでていいのだろうか?って(笑)
しかしそう思いながらも読み続けられたというのは、根本として一般感覚に寄り添ったポリシーの上で制作されていたからなのかなと思いました。それこそ太田さんや皆さんの意思があったからなのかなと、お話を伺っていて思いましたね。 写真のための写真じゃない というのがすっと入ってくるキーワードです。

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