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写真のためではない写真【写真と生きる】

写真のためではない写真【写真と生きる】

2018年5月24日

紙へのこだわり、作家の世界観を尊重するということ

[太田]
しかも、2012年というデジタル化が加速する時期に、紙の雑誌をあえて創刊することは、無謀な挑戦のように受け取られたと思います。
でも写真雑誌である限り、紙にプリントするという行為はすごく重要なことだと考えています。例えば情報誌だったら、もはや紙はいらない、オンラインだけでいいという判断があったかもしれないんですけど、デバイスによって変化してしまったり、質感が均質化した環境で見てもらうのではなく、作家が見てほしい最終形に限りなく近い状態で読者に届けることを大事にしたかったので、紙に絶対のこだわりがあったんです。さらに写真にとって、写真史の観点からも 「雑誌」 という形態の持つ意味は特別です。
だから、 IMA では、作品によって紙を使い分けるということを創刊以来ずっとやってるんです。たぶん皆さん、紙がちょっと違うなっていうのは理解してくださってると思うんですけど、実は 10数種類の異なる用紙 を使ってるんですね。

[黒田]
そんな多いですか。豪勢だな~とは思ってましたけど、そんなに。

[太田]
そうなんです。例えば同じ銘柄の紙でも、ホワイトとナチュラルという違いだけでも印象が大きく変わりますし、人はそれを敏感に感じるもので。

[黒田]
なるほど。読んでいて写真家を非常に大切にされている雑誌だなという印象がありました。いまは自分も写真を撮るので、やっぱり撮ったものを掲載していただくのであれば、紙にもこだわりたいですし。先ほどおっしゃられていたみたいに、デバイスの透過光で見られるということは、その時点でモニターのキャリブレーションであったり色の違いであったりとか安定していないというか。ただ、それが紙であれば、紙の時点で写真作品としてアウトプットになるじゃないですか。読む環境は異なるでしょうけど、そこも含めて作品と言える。そこまで非常に考えられているんだなというのは読んでいて感じる部分でしたね。実際にこういうお話があって、非常に納得です。

[太田]
雑誌は読み捨てるという感覚もあるとは思うんですけど、なかなか写真集をいっぱい買える人はいないと思うので、家に取っておいていただけるような、雑誌と写真集の中間ぐらいの存在になれたらと考えています。
IMAを1号買えばダイジェストみたいな形で、いろんな作家の表現を20人ぐらいは知ることができて、その世界感も紙で表現されている。写真家が、プリントや写真集でやろうとしてることを、なるべく雑誌も伝えられるようにと考えていて、誌面で作品を紹介するときは、いつも掲載フォトグラファーの写真集も必ず入手して、そこで使ってる紙とか色味に限りなく近づけるようにしてます。出来る範囲ですが。

[黒田]
作家の世界観 をできるだけ 解釈 した上でということですね。

[太田]
はい。どうしてこの作家がこの写真集でこういう紙選んでるのか。ADと一緒になるべく汲み取っていくようにしてます。

[黒田]
なるほど。 「そこまでやられているんだ」 と感じると同時に、それも納得というアウトプットですよね。10数種類使われてるという時点で、それなりの哲学があるのだなとは想像していました。作家さんの世界観についても、ある種IMAが解釈をしていくことで、新たなアートじゃないですけど世界観を構築しているともいえるのかなとも感じます。

[太田]
実際に見て触って「この紙とこの紙は違いますよね」と明確に認識しながら読む人はいないと思うんですけど、人間の感覚は鋭いので、なんとなくこっちのページはちょっとレトロっぽい雰囲気が伝わってくるなとか、ここはすごくコンテンポラリーな感じがするなというのは、紙からも情報として絶対伝わっているはずなんです。だからそこを疎かにせず、人間の感覚を見くびらずに丁寧にやりたいなと常々考えています。質感のザラっとした感じだとか、光沢があってテカっとしている感じとか。そういう感覚は五感を通して記憶に残っていくと思うので。

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