Special Issueビズスタ特集

頂点を目指す、それが「挑戦」

頂点を目指す、それが「挑戦」

2016年8月25日

父は、99歳でモンブラン氷河の滑降に挑戦した。
それなら、俺はエベレストだ、と思った。

 

プロスキーヤーであると同時に、登山家にして冒険家。エベレスト登山で最年長記録を樹立するなど、数々の偉業で世界を驚かせ続ける三浦雄一郎氏。この秋で84歳になる彼は、今も現役どころか、全盛期そのままの意欲に満ち溢れるように見えた。反射的に「見習いたい」という言葉が口をつくが、相手は文字通り「雲の上」にいる偉人。すべてが私たちとは別次元なのだろう…と想像しつつ、トレーニングの合間を縫ってのインタビュー。

まずは少年時代について伺うと、意外な答が返ってきた。

小学生の頃は、落ちこぼれだったんですよ。身体が本当に弱くてね、あまり学校に通えなかったくらいで。身体に自信がついたのは、高校生の頃ですかね。

| 青森県高等学校スキー大会で3年連続個人優勝という偉業を引っさげて、北海道大学に進学。ご存じ同学の「少年よ、大志を抱け」のモットーは学友にも浸透しており、大いに刺激を受ける。

私の友人たちは、みんな「この分野で世界一になるんだ」という夢を抱いていました。それは実際に叶っていて、その後、一人は海洋学の分野で、もう一人は渡り鳥の分野で世界的な権威になりました。私も、当初は「獣医学の薬の分野でノーベル賞を」と考えていたんですよ。結局は、大好きだったスキーと登山に傾倒してしまったんですけどね。

ノーベル賞という単語がサラッと出てくるのも凄いが、路線を変えても「世界一に」というモチベーションも凄い。しかも、記録はやがて塗り替えられると思い、前人未到の道と考えたというのだから恐れ入る。
富士山の直滑降、世界7大陸最高峰全峰からの滑降。体力や技術もさることながら、改めてその発想力に驚かされる。そんな超人も、一度は目標を見失って引退を表明。一時は体調も崩したそうだが、65歳の時、新たなアイデアを得てカムバックする。

99歳でモンブラン氷河の滑降に挑む父親の姿に触発されましてね。なら、俺はエベレストかな、と(笑)。結局、挑戦の舞台に戻ることになりました。

還暦を過ぎても、父の背中を追い続けた三浦氏。その後、70歳、75歳、80歳とエベレスト登頂の世界最高齢記録を塗り替え続けたことは、よくご存じの通りだ。その成果には世界中から称賛が集まったが、裏には「挑戦」に備えた日々があった。普段から片足5キログラムの錘付きの靴を履き、背中には10キロの荷物を背負って身体を鍛え直したという。あのお歳で…だ。
取材当日も、足下は片足2キロ近いシューズ姿。大変失礼ながら、ご自身の年齢を意識しないのか、という質問を投げてみた。

年齢で何かを諦めたことはないですね。もちろん「若い頃ならもっと楽だったのに」とは思いますが、いまは年齢相応の仕事をしていると思っています。むしろ辛さがあった方が、それを撥ね除ける力が湧いてきますから。

次は、世界6位のチベットの高峰、チョ・オユー登頂とスキーでの滑降。2018年に向けてトレーニングを始めているそうだ。最高齢記録を更新したい、人類の限界を上げてみたい。ほとんど鬼神のような意欲はどこから湧き上がってくるのか、私たちにも真似できることなのか。最後に、本紙読者へのメッセージかたがた、「秘訣」を訊いてみた。

ビジネスの舞台でも同じなのではないでしょうか。新しい企画でも売上でもいい、何かひとつの分野を選んで「ここが頂点だ」と思えることを目指すのが重要だと思います。「挑戦しよう」という気持ちを持ち続けること自体が大事なんですよ。強い気持ちを維持できれば、自然と「生命力」も上がるものです。向上心を持つことに、年齢など関係ありませんから。

 

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三浦雄一郎 挑戦
三浦 雄一郎さん (ミウラ・ドルフィンズ)

プロフィール
2003年、次男(豪太)とともにエベレスト登頂、当時の世界最高年齢登頂記録(70歳7ヶ月)樹立。
2008年、75歳2度目、2013年80歳にて3度目のエベレスト登頂世界最高年齢登頂記録更新を果たす。
アドベンチャー・スキーヤーとしてだけでなく、行動する知性派また教育者として国際的に活躍中。

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